だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。
――マタイによる福音書6章34節
+++
最近読んだニュースに恐ろしい記事がありました。
映画を2倍速にして見ることで、普通の速度で見る時間を使って2本分見ている人がいる、という記事です。
これをタイムパフォーマンス、略して「タイパ」が良いとして最近多くの人々が行っているとありました。
私が子どもの頃には、映画を見るなら蔦屋でDVDを借りてくる、という方法しかありませんでしたし、2倍速にすると音声も飛び飛びになったりするので、視聴するためではなくて見たい場面を探すためにしか使っていませんでした。
何より、映画の中で沈黙やセリフがないシーンが多かったり、ゆっくりとした動きで映し出される情景に意味がある映画もたくさんあります。
つまり、沈黙や激しい動きのない、一見情報の少ないシーンにも、ちゃんとそうしている理由があって、その時間にこそメッセージが込められている、ということです。
どうして二倍速で見る、という発想になるのか考えてみましたが、多分今の時代の私たちが、それだけ時間に追われているということなのかもしれません。
しかし、タイムパフォーマンスを重視するあまりに、そこにある行間や情緒を切り捨てて、早送りされた情報だけを受け取って知ったつもりになることほど、恐ろしいことはないなと思うのです。
それは、誰かとのコミュニケーションにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。
私たちが会話して相手に情報を伝える時、言葉自体は、情報の3割しか伝えていないと言われています。
つまり、声のトーンや表情、言葉に詰まったり言葉を探している沈黙の時間が合わさってやっと、伝えることのできる情報の100パーセントが相手に伝わっている、ということなのです。
文字だけのやりとりよりも、ちゃんと面と向かって、顔を合わせて話したほうが気持ちが伝わりやすいのはそれが理由なのです。
タイムパフォーマンスに優れていることを選ぶことは悪いことではありません。
しかしそこで削り落とされてしまったもののなかに、本当に大事なものがあったのではないか、ということにも、私たちは心を寄せたいのです。
キリストは言いました。「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。」
この言葉は、生き急ぐことがないように、という神様からの呼びかけなのです。
私たちはタイムパフォーマンスを優先するあまりに、本当に大切なものを自ら切り捨ててしまったりします。
明日や先のことばかりに気持ちを向けると、そこには余計な不安も生まれてくるかもしれません。
だからこそ、今日という日、目の前にある今と言う時間を大事に受け取って生きていくことを、私たちは忘れないようにしたいと思うのです。
たとえタイムパフォーマンスに優れてなくても、一つ一つのことを丁寧に、それにふさわしい時間を使っていくこと。
それは、長期的に見れば、決して無駄ではありません。
相手と関わる時間を大事にすること、学ぶべき知識をうわべだけ手に入れるのではなく、自分の身に着けていくこと。
すべてのことをあなたを人として成長させる糧として受け取っていけるように、まずは今日という日にしっかりと目を向けて過ごしていきたいと思います。