イエスは重ねて言われた。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。」
──ヨハネによる福音書 20:21
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クリスマスが近づいてきました。
街中がクリスマス一色になる中で、クリスマスの讃美歌の中では最も知られているであろう「きよしこの夜」が聞こえてきました。
ところで、この「きよしこの夜」を作詞した人──ヨーゼフ・モールという人について、そしてこの讃美歌の歌詞が生まれたいきさつをご存じでしょうか。
このヨーゼフ・モールという人はオーストリアの貧しい家庭の私生児として生まれました。
大変歌を歌うのが上手だったため、モールの才能を見込んだザルツブルク大聖堂の大司教が、良い教育が受けられるようにと取り計らってくれました。
そのおかげで彼は大学の聖歌隊、修道院での歌い手、そしてバイオリニストとしての少年期を過ごすことができたと言われています。
哲学を基礎として学んだあと、19歳でザルツブルクにあるカトリックの神学校に入学して、1815年に司祭(プロテスタント教会では牧師にあたる)になりました。
ちょうど「きよしこの夜」の歌詞を書いたのが、この翌年の1816年であった、と言われています。
この1816年は、オーストリアにとって運命の年でありました。
というのは、以前からザルツブルクと、その南にバイエルン公国というのがそれぞれ独立領としてあったわけですが、そこはナポレオン戦争の中で20年にも渡って幾度となく占領支配が行われていた地域でもありました。
モールが牧師になった1815年は、ちょうどザルツブルクがオーストリア領として合併した年でした。
そして翌年の1816年には、南バイエルンはドイツ領として合併して国境が敷かれることになりました。
つまり1816年という年は、モールが生きていたオーストリア・ザルツブルクとその隣国ドイツ・バイエルンにとって、およそ20年ぶりに平和が戻った年であったわけです。
実はこの「きよしこの夜」の歌詞は、日本語では3番までしかありませんが、元々は6番まである曲です。
そして日本語に訳されていない4番から6番の歌詞は、平和を歌った歌詞なのです。
そのうちの4番の歌詞をご紹介したいと思いますが、こういう歌詞になっています。
静かな夜、聖なる夜
今日全能の神は 慈父の愛を注ぎ、
イエスは世界のすべての民を
兄弟として優しく抱きしめてくださる
イエス・キリストという方は、敵すらも愛する心をもって、すべての人に平和をもたらす方であったと聖書は語ります。
だからこそモールは、目の前で戦争が終わり、かつての敵であろうと味方であろうと、等しく兄弟として優しく抱きしめる、そのような人々の関係性の中に、イエス・キリストが語った平和を見たのではないかと思います。
世界中を見渡すと、いたるところで争いが起きています。それは、日本においても例外ではありません。
自らが正しいと信じることを振りかざし、相手の意見を受け入れることのできない人がいます。私たちもそのような人々に出会うかもしれません。
私たち自身がそうなってしまって、誰かとすれ違い、仲たがいすることだって、あるかもしれません。
しかしだからこそ、神様はそのような世界のすべての人々を、愛し合う兄弟姉妹として優しく抱き留めてくださるために、この世に来られたのです。
そのことを思うとき「果たして私たちは平和を分かち合う人として立てているだろうか?」と、自分自身を振り返りたいのです。
イエスは言われました。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。」
私たち一人一人が、誰かのことを思いやり、ひとりでも多くの人を笑顔にする、そのような平和を実現するために神様によって送り出されています。
自分には何ができるだろうかと考えながら、イエス・キリストがこの世に来られたクリスマスを待ち望むアドベントの時期を過ごしていきたいものです。