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これだけしかない、と思うときに


イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」

――マタイによる福音書14:16-17

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本屋をうろうろしていると、『ネガポ辞典―ネガティブな言葉をポジティブに変換』というタイトルの本を見つけました。
ネガティブな言葉は捉え方次第ではポジティブな言葉になる、というコンセプトでまとめられていて、たとえば「自分に甘い」は「自分にやさしくできる」とか、「お腹がすぐ減る」は「健康的」みたいな、ちょっとした言い換えで、自分のネガティブな言葉を和らげてくれる言葉が紹介されている本です。

こういう本を読んでもほとんど気休めにしかならない、という人もいると思いますが、大事なことは、私たちの世界というのはたくさんの視点から見ることができる、ということなのだと思います。
たとえ苦しいこと、やりたくないなと思うことでも、それを自分を成長させてくれる機会だと思えば、受け取り方も違ってくるものです。

このように、視点を転換することによって受け取り方を変えることを、リフレーミングと言います。
そして先ほどお読みした聖書の箇所の中でも、2000年前にイエスはこのリフレーミングを実践しているのです。

多くの人々が夕暮れ時までイエス・キリストの周りに集まっていました。
病を治してもらいたい人もいれば、イエスの言葉を熱心に聞きにやってきた人々もいたでしょう。
その数、5000人以上だったと聖書は記しています。
夕暮れ時になって、そろそろご飯の時間と言うのに、人々は一向に帰ろうとしませんでした。
弟子たちは人々を解散させようとするのですが、イエスは弟子たちに対して、人々にご飯を食べさせるようにと言うのです。
弟子たちの目の前には「パンが5つと魚が2匹」ありました。
このわずかなパンと魚を見て弟子たちは言うのです。「パン五つと魚二匹 ”しか” ありません。」

この「しかありません」という言葉には、5000人のお腹を満たすには全然足りない、というニュアンスがあります。
しかしイエスは、そのパンと魚を手に取って神様に感謝の祈りをし、人々に分け与えると、5000人以上の人々は満腹した、という奇跡が起こるのです。
イエスにとって、パン5つと魚2匹は、これしかない、ではなかったのです。
神様が与えてくださったものだから、私たちにとってそれが十分である。そう感謝をして人々と分け合うことで、弟子たちにとってはこれ「しか」なかったものが、「十分な」ものになったのです。

本当にパンと魚が物理的に増えたかどうかは、聖書からははっきりとは読み取れません。
しかし確かに「すべての人が満腹した」と聖書には記されています。
それはつまり、考え方、捉え方、受け取り方を変えることによって、目の前の事柄を受け取る私たち自身の、心にも体にも、大きな違いが出てくるということです。

私たちの日々の慌ただしい生活の中では、「これだけしかない」と焦り、嘆き、不安になることがたくさんあります。
けれどもまず、今目の前にある時間、目の前にある状況を、そのままに受け取るとき、私たちの見ている世界は変わるのです。
小さなことにも感謝をし、心に余裕が生まれると、わずかだと思っていたものが不思議と増えていく。それは自分や誰かの笑顔であったり、他の人からの助けであったりするかもしれません。自分一人の力ではどうしようもできなかったものが、大きな流れの中で、少しずつ動き始めるかもしれません。
そのためにまず私たち自身が、少しでも時間を作り、神様に祈ること。心を静めて何事もポジティブに受け取る心を持つこと。
きっとそこに、神様は働いてくださるはずです。